いつも28歳だった父のこと
わたしが幼いころ、父はいつも28歳だった。
20年以上前、年齢を訊ねると
「僕?28歳だよ。」
と笑った父は、そのままいつまでも28歳だった。
誕生日に年齢を訊ねても、
「今年で28歳かな。」
と、ろうそくの本数にそぐわない年齢を答えていた。
10年前、わたしは18歳だった。
父はもちろん、28歳のままだった。
「個室が良いってわがまま言ったらここになった。」
と笑う父は、”天国に一番近い部屋”で、ずっとバラエティ番組を観ていた。
わたしはいつも、学校帰りに制服を着たまま病室へ通っていた。
数年前、父は38歳になった。無事に歳を重ね続けた父は
「さすがに28歳じゃないかな。」
と、20代の娘を前にして笑っていた。
お医者さまから「僕にも理由がわかりません」と告げられた奇跡の寛解から数年、父は変わらずふざけて笑っていた。
1年前の今日、わたしは26歳を終えた。
「母がわたしを産んだ年齢」を終えた日だった。
明日、わたしは28歳になる。
そりゃ父も「38歳」になるわけだ、と思う。
わたしにとって「28歳」といえば、「父の年齢」だった。
ところがいざ自分がその年齢を迎えてみると、親になるなんてとんでもない、大病を越えるなんてとんでもない、まだまだふらふらした子どものままだった。
父が言う「28歳」には、どんな像が描かれていたのだろうと思う。
28歳のうちに、お酒でも飲みながら聞いてみたい。
明日、父には感謝のことばと一緒に
「こないだまでのお父さんに追いついたよ」
なんて言ってみようかなあ。