分かったつもりの備忘録

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ずっと大切にしてきた宝箱を背負った日までの話

大好きな大好きなバンドの曲なのに、CDもちゃんと手元にあるのに、一度も聴いたことのない曲が数曲あった。

 

あまりにも嬉しいことがあったとき、あまりにも疲れてしまったとき、日常の、本当にふとしたとき、そんなときに少しずつ聴くことにしてきた。

まるで大切にしまっておいた宝箱から取り出すようにして、1曲ずつ1曲ずつ聴いていた。

 

馬鹿みたいな理屈だけれど、その大好きな大好きなバンド、ELLEGARDENが歩みを止めていた以上、宝箱にしまいこんでいる曲たちを聴き終えるまでの期間はまだ、わたしだけにとっての「ELLEGARDENの新曲」に出会える日々だった。

彼らに会えずじまいで迎えてしまった10年の間で何度か開け閉めした宝箱には、あとほんの少しだけの「新曲」が残っていた。

 

だけれど、宝箱の底が見える前に彼らが戻ってきた。

 

2018年5月10日、その日、わたしのツイッターアカウントは

「自販機って183cmらしいよ、小栗旬とか綾野剛と向き合う練習とか、高橋一生田中圭と目を合わせる練習ができるね」

といつもと変わらずふざけていたら色んなひとに届き、TANITAさんSHARPさんにも届き、最終的に1,200万人に届き、それはもうてんやわんやになっていた。

 

「がちゃぴんのツイートとELLEGARDENのニュースが、Twitter公式モーメントに並んでるよ」

なんてLINEをもらった。

数年前の頃のわたしに伝えたなら端から端まで理解不能だろう状況がやけに面白かった。

ELLEGARDEN」って文字列に似合うSNSは「mixi」だったんだよ、なんて思った。

 

信じられないくらいてんやわんやのタイムラインのことすら忘れてしまうほどに、信じられないくらいあまりにも嬉しいニュースを受けたその日の帰り道、宝箱から1曲取り出した。

その日まで曲名しか知らず、歌詞も知らなかった、初めて聴いたその曲は、始まって一言目に

“Seven years have passed so quickly, and it seems like yesterday”

(あっという間に7年が過ぎていたけれど、まるで昨日のことみたいだ)

と奏で始めた。

 

思わず「嘘でしょ、」と少し笑いながら独り言がこぼれた。

10年が過ぎたし、あっという間ではなかったけれど、彼らが戻ってくるそのひとつでまるですべてが昨日のことのように蘇っていた。

 

そのまま、

“I don’t forget the promise we made”

(僕らの約束を忘れないから)

と歌われた。

ELLEGARDEN細美武士として休止前ライブで話した「これが最後じゃない」という言葉、ELLEGARDENを愛するひとの手元に届いていた、「解散はしないから。俺頑張るからね。」の言葉、色んなことが頭をよぎった。

 

彼らの音楽に出会ってから十数年、最初は ”Wannabies” の意味すらわからなかったわたしが、一度で聴きとれるほどには大人になっていて、あの英語詞の発音を聴き慣れていたことが、嬉しくて誇らしくてどこか少し気恥ずかしくて、そして、この「わたしだけにとっての新曲」を聴けたすべての幸せに歩きながら笑って泣いてしまった。

 

 

その日からわたしの開くタイムラインはいつもELLEGARDENのことでいっぱいだった。浮足立って半信半疑で、「ELLEGARDENのライブチケット」というものの存在は遥か霞の彼方にあるようだった。

 

ある日、わたしのふとしたつぶやきに

「自分ももちろん当てたいですが、あなたのような人にチケットが当たってほしいです。」

とリプライをくれた方がいた。あまりのやさしさあったかさにとても嬉しくなって、わたしは、感謝の言葉とともに

「きっと、そういうあなたのような方にこそ当たるんだと思います。」

と返した。

 

それから数か月が経って、やっぱりわたしはチケットを当てられなかった。

分かってた、分かってたよイーマイナスさん…という納得感と、どうしても諦められない気持ちでTwitter検索をかけた。

急遽ひとり行けなくなった、と同行者を募集している方を見つけて、リプライを送った。

 

存外に、すぐにお返事をいただけた。

「普段は別のアカウントでTwitterを見ています。そちらでがちゃぴんさんをフォローしているので(リプライがきたことに)驚きました。普段はこの画像に写っているアカウントを使っている者ですが、良ければ同行を…」

このメッセージに添えられていたのは、とあるTwitterアカウントのスクリーンショットだった。

 

それは、わたしに「当たってほしい」と言ってくださった、わたしが「きっとあなたにこそ」と返した、その方のアカウントだった。

 

あまりの奇跡に思わず席を立ってトイレに行って何度も画面を確認して、思い切り涙ぐんでから一生懸命お返事を打った。

ELLEGARDENのライブに、行けることになった。

 

 

ライブ当日は、公式グッズとして売られていた「宝箱Tシャツ」を着た。

まるで、わたしが「新曲」たちをしまい込んでいた宝箱が描かれているような気持ちだった。

大好きな大好きなELLEGARDENに初めて会える日、ずっとずっとわたしの脳内だけにあったはずの宝箱を背負って立っていた。

 

そんな公演の前後、SEとしてストレイテナー「ROCKSTEADY」が流れたとき、 <ROCKSTEADY~!> と歌う声が聞こえてきた。

ASIAN KUNG-FU GENERATION「君という花」が流れたとき、あの聴き慣れた少し気だるげな声に倣うように皆が皆すこし小声で歌っていた。数万人の小声は、十分に空気を揺らす合唱になっていた。

MONGOL800「あなたに」が流れたとき、だんだんと合唱は大きくなって、 <あーなーたーに!会いたくてーーーー!> の大合唱だった。

 ELLEGARDENを愛してやまないだけじゃない、別々の場所で同じ2000年代を生きたひとたちが、いろんな愛と物語を持って集まっていた。 

 

どんな公演だったか、なんて、わたしの言葉ではどうにもならない。

ONE OK ROCKの命を燃やすようなライブも、takaのMCも、待ちに待ったELLEGARDENのライブも、メンバーの言葉と表情も、全部全部、文字にできない知らない感情で見つめてきた。

 

きっと大泣きしてしまうに決まってる、と思っていた始まりのSupernovaは、聴き慣れたフレーズで始まった瞬間、自分でも聴いたことのないような歓喜の声を上げて顔が壊れるんじゃないかってくらいにくしゃくしゃに笑って、最大級の笑顔で聴けてしまった。

 

「ずっと支えられてきたから、もし聴けたらしっかり焼き付けるんだ」と思っていた <思うよりあなたはずっと強いからね> の言葉は、聴けた瞬間に声を上げて泣いてしまった。

 

どう表現したらいいかわからない感情であふれて、ただただ幸せで、わたしの人生のいろんなものが洪水のように流れてきて、でもそれはわたしだけではなくて、会場の内外で起こっている数万の洪水がぐっちゃぐちゃに混ざっていた。

 

  

彼らが戻ってきた一報を聞いた日からずっと、ずっと夢みたいな日々に嘘みたいな奇跡と思い出が積み重なって、分厚すぎるアルバムが出来上がってきた。

 

チケットをお譲りいただけた奇跡的な出会いに震えたこと、

「あの子に行ってほしいから」と誰かを想う気持ちにたくさん出会えたこと、

チケットが無いまま幕張に来たというお兄さんと、「見つかりますように」と握手をしたこと、

スタジアムでビールを買いに行ったら、目の前に並ぶ女性から「がちゃぴんちゃんと乾杯したいな」と聞こえてきて驚きで顔を上げたこと、

ライブが終わって届いた「夢のようだった」のメッセージに少し涙ぐみながら同意の返信をしたこと、

握手をしたお兄さんが直前にチケットを譲ってもらえたと聞いて、自分のことのように嬉しかったこと、

一度ホテルに戻ったのに、「特別な夜だから」と、帰路についていたはずの友人と深夜の幕張の夜空の下乾杯したこと。

 

使い古された言葉だけど、この夏はきっと、一生忘れられない夏だと思う。

あまりにも嬉しい日々に宝箱の中身は一気に減ってしまったけれど、中は空っぽにならずに、新しい宝物がいっぱいに詰まった。

一生忘れたくないし、何度も何度も反芻してしまって、ぽんこつなわたしの中では夢も現実も全部ごっちゃになってしまうかもしれなくて、でもそれも含めての、夢みたいな忘れられない夏なんだと思う。 

 

 

2018年5月10日を迎えて、自分の生きてきた道にずっと流れていたELLEGARDENの音楽を振り返った気持ちは、【音楽はすべて「オリコン」の中だった】のタイトルを付けて5月のうちに文章に残しておいた。

たった数か月前の自分のことだけれど、この日の自分を引き寄せて抱き締めあって大声で騒ぎたくなる。

 

会えたよ、聴けたよ、嬉しいね、おめでとう。これからも、頑張ろうね。